佐渡医院 お知らせ&ブログ

岩手県岩手郡岩手町の佐渡医院のお知らせや日々をご紹介。
岩手県西北医師会医報のNo.110/平成29年度 2017年9月号の理事長のコラムです。

 

宴会の流儀

 

                 医療法人徳政堂佐渡医院 佐渡 豊

 

 なみなみと注がれたビール、泡が消退へと向かっている。参加者の表情に、忍という文字が漂い初めている。「早よ、せんかい」という郷里のフレーズが脳裏に浮かんではいるが、ここは仲間うちの宴ではない、発語には至っていない。せめてもの意思表示か、手に持ったグラスをテーブルにもどす方もいる。乾杯の口上のついでになされる説教、自慢話、どんな話でも長くなるとうんざりである。乾杯の前の長口上はいらない、宴会にも流儀やら作法なりがあるのだ。

 宴会の案内は、必要事項をチェックするようにと、返信ハガキやファックスが添付されている。呼ばれた側は、必要事項にチェックを入れ返信することになる。一見何でもなさそうな習慣ではあるが、今にして思えば、呼ばれた側の見識を問うている。つまりは試されているということに気付く。それは、出欠席の項はどちらかに○を付けるのであるが、御出席、御欠席という具合に、必ず御という字が書かれている。自分のことを御出席はなかろうと、御を=印で消し、更に出席を○で囲むという作業をしなければならない。そして表の宛名には、謙譲の意である、行という字が、さあどうするのだと試しているかの如く、書いてある。それを=印で消し、様や御中という文字に訂正する。そこで作業完了「これ投函ね」と事務のお姐ちゃん、いやスタッフに、お願いするのはちと早い。準備した幹事さんの苦労を思えば、「御案内有難うございます。当日は所用にて欠席ですが、御盛会を祈っております」という旨のフレーズを書き入れることもある。

 たかが数十秒ほどの作業に過ぎないが、作業後はやれやれという気分になる。それは、さりげなくも尊敬語、謙譲語、社会性、おもいやり等々のインテリジェンスを問いかけているからなのだろう。書類過多の昨今であっても、人まかせには出来ない。

 乾杯の場面に話を戻すと、思い出深いシーンがある。それは30年前になるだろうか、故S先輩は、「ここに集った皆様だけの、御多幸を祈って乾杯!」と宣った。参加者一同の一瞬のとまどい、驚き、の後、それは失笑に変わり、張りつめていた場の緊張は一気にほぐれ、「乾杯!」と高らかに唱和したのだった。乾杯の辞は通常「世の人の多幸を祈念し、併せて参加者の・・・」や「参加者の・・・を祈念し」等である。それを参加者だけのと強調したことにより、その意味するところは、一気に内向きとなり、天の邪鬼、悪ぶった様な、そしてかすかに非参加者への当てこすりをも含むものとなった。およそ乾杯の音頭にはそぐわないところが、意表を突き、受けたのだ。その後も彼は、時折このフレーズを発していたが、勝率は100%、宴会場は和み、良きムードメーカーたりえた。共感した私は、あの感動をもう一度とばかり、早速、爺さま、婆さまの集う飲み会で、先輩と同じフレーズで厚かましくもトライしたのであるが、反応は今一つ。こうして1回目は完敗。以後の試行から成功の秘訣は、どうやら次の3点に集約されるようだ。それはゞ気を読む、間のとり方、フレーズの工夫、フレンドリーな態度、である。度重なる失敗にもめげずに、やったかいもあり、勝率は少しずつ上向いてきたのではあるが、数年前、偶然S先輩のあとに、私が乾杯の音頭をとることになり、「先輩も専売特許ではありますが、不肖わたしが・・・」と前置きし、くだんのフレーズを試してみた。

 終わった後、「先輩きょうのは少し近づけましたか?」「うんひと頃よりはマシになった」ということで、まだまだ免許皆伝にまでは達していないようだ。今のところ勝率は60%程度と思われる。日暮れて道なお遠し、果たして先輩の域に到達するのだろうか。

 乾杯の音頭を取る機会は、そう多く巡ってはこない。しかし、どうしても最初の鮮烈な印象が忘れられなくて、その場に遭遇したら性懲りもなくあのフレーズをやってしまう。何事もチャレンジが大切である。とはいうもののこんな些細なことを頑張っているのもなんだかなあではある。

 以上のことどもは宴会のいわば、さわりの部分である。本番の宴席、最後の〆の音頭、更には二次会までは、流儀、作法、エピソードの宝庫である。語るべきことは、数々あれど、どうやら紙面も尽きてきたようだ……、どうでもいい話はここら辺で。

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